出産という賭け・予定日超過23日のお話
ノンフィクション!ふうちゃん誕生物語……出産という賭け・予定日超過23日のお話
まだ暗いところにいるふうちゃんとサミーラさん。ただいま光増量中です。ASA400にて撮影後、画像修正。
ふうちゃんが、ごく普通にぽっこりと出てきたとき、苦労しただけあって、そう、あれはつわりから始まって、出産がまさにそのピークだったんですね。だから、喜びも大きかった。ふうちゃんが、ぽこりと出てきたとき、ふうちゃんはまだ血まみれで、流れ出る羊水でびちゃびちゃだったけど、まはとサミーラさんは、二人して、「ふうちゃん!」って呼びました・・もう嬉しくて嬉しくて、へその緒がつながったままのベイビー「ふうちゃん」に向かって・・・・
そのときに思ったんですけど・・・
出産とは、賭けではないかな?って、ある意味、命をかけた賭け・・・とにかく、出産にはいろんな危険がつきものですから、、、それだけに不安も大きいし、精神面、肉体面での、ある意味、苦しみも大きいかと思うんです。そして、たぶん、それが出産というものではないかな?と。
まぁ、昔のように10人から子供を生む、子沢山時代の妊婦さんは別として、とくに未経験な初産婦にとって、お産とは、生きるか死ぬか・・・そんな感覚じゃないかなとも思ったんです。
プラバダイ、助けて!
ただ、実際のところは、そんな思いも自分たちの自意識過剰で、大したことなかったようで、アーユルヴェーダ医師であり助産婦でもあるプラバダイに、
「お産というのは、こういうものよ」
とあっさり言われてしまいました、あはは! 命をかけた賭けなんて、大げさなぁ~ってなもん。プラバダイは、陣痛が始まって三日目の朝、まはがもうだめ・・・このままだったら、まはもサミーラさんも、ベイビーも衰弱して死んじゃうよぉ!と、もう根をあげかかったとき、とにかく「助けて!」とプラバダイを呼んだんです。
「もうだめだと思う!帝王切開して出してもらわないと・・・サミーラさんは陣痛が三日も続き、もまともに食えず、しかも寝てもいない・・・もう衰弱しきっていて、このままでは母子ともに・・・」
「はいはい、じゃ、朝、様子を見に行くわよ」
とプラバダイは朝早くから様子を見に来てくれたわけ。サミーラさんのお腹を触って、内診をすると、「ああ、陣痛もいよいよ本格的になったわねぇ、子宮口もあともう少しで前開!もう一息よ!どうするの?帝王切開する?それともそのまま出てくるのを待つ?そうねぇ、今日の午後くらいじゃないかな?」とプラバダイが陣痛で苦しそうなサミーラさんに話すと、彼女は急に息を吹き返したかのように、
「ここで産む!」
と一言。
「そうねぇ、どうなるか、わからないけど、死んで出るも生きて出るも、ベイビーの運次第よね。神様とワゴリのマハラジにお祈りしておくから・・・ただ、このベイビーは心臓の鼓動は大変しっかりしている。大分と強い子供だわよ。きっと、運が強いから、大丈夫と思うわよ。それにしても、陣痛だというのに、サミーラはおとなしいわねぇ、普通、インドの産婦は大暴れするけどね、ワタシャ、どれだけ、殴られ、蹴られたか、しれないわよ。だから、ね、この歳になって、もう助産婦はしないの。体がいくらあってももたないから・・・。インドの女性のお産に比べたら、日本人のお産はとても礼儀正しい。まぁ、あと数時間かしら・・・遅くても今日の午後にはベイビーは出てくるわね、それまでは、待ってればよし」
と、彼女は笑っている。
「えっ、お産って、こんなものなの?じゃ、普通かぁ~。ああ、おとなしいほう。つまり普通以下、あはは。サミーラさん、プラバダイは、これくらの陣痛なら大したことないって、もうすぐベイビーは出てくるって言っているよ!」
陣痛で日本人はおとなしい、インド人は暴れる・・・
「日本人はおとなしい?インド人はもっとひどいの?」って、プラバダイに聞くと、
「インド人は強烈ね。怒鳴る、わめき散らす、殴る、殺せ、殺せとか、早く腹を切って(帝王切開)子供を出せ!とすがりつく・・・でも、これはほんと最後の局面。この痛みをとおりこさないと子供は出てこない・・・。初産婦は、子宮口が堅いのね。これが開くときが一番痛い。痛くて痛くて、泣き叫びたくなる。でも、でも、インドの家庭は大家族・・・おじいさん、おばあさん、長男夫婦とその子供、次男夫婦にその子供、親戚・・・みんなが小さなところに一緒に住んでいる・・そんなところでこんなどんちゃん騒ぎをするのもね・・だから、最近は、家族が帝王切開を希望する。本人より、それを見ている家族が我慢できなくなるのね。ご主人が率先して帝王切開を希望する・・・妻がこんなに大変なことになって、血相を変えてね、『切って出してくれ』と懇願する・・・。そんな事情で、インドでは、時代は病院出産、帝王切開ね。自宅で産むのは、病院代金が払えない人だけ・・・。帝王切開の手術費用なんて高すぎて、貧乏人には到底払えない・・・。」
サミーラさんが数分おきにやってくる陣痛のたびに、「ぎゃ~」と苦しそうにもだえる。その後ろで、まははサミーラさんの背中をさする。手にはポカリスエットのような飲み物を持ち、陣痛の合い間合い間にストローを口に差し込む。彼女は苦しそうにちゅうちゅうする。プラバダイはその前に、腰をでんと下ろして気楽にしている・・・・。まはは連チャンの徹夜でフラフラになりながら、サミーラの背中をさする。そうして、プラバダイとこんなやりとりをしていた。
微弱陣痛?
特に、今回は、陣痛がはじまって、三晩、眠ることができなかった。 あとでサミーラさんとも話したんだけど、これって結局、微弱陣痛じゃなかった んだろうかって話になった。なかなか本格的な陣痛が始まらないために、お産が 長引いて、体力が消耗しちゃったんじゃないかなってこと。原因はいろいろとあ ると思うけど、結局、単純に、フルーツの食べすぎじゃないかな?って。イチジ クをぱくぱく十個以上も毎日食ってたからなぁ~、サミーラさん。リンゴも食べ てたし・・・。ある人がいうには、人間、しっかりと塩分と取らないと、引き締 めることができない、フルーツばかりだと塩が体から抜けるから引き締める力が なくなってしまう・・・だから、微弱陣痛になるんだろうと・・・それはありえ るかもと思う。
陣痛が始まりそうなときに、プラバダイは電話口で、「朝には必ず頭に湯を掛けな さい。そうして、胡椒小匙1程度をギーに溶かして、それを食べること。刺激にな ってそれで陣痛が早まる」とも言っていた。たぶん、陣痛は痛いけども、体力 の消耗戦にならないように、早く済ましてしまったほうが得策なんだろうと思う。 長引くお産は、体力的に消耗してくると危ないのだと、そんなことをあとで思った。 いずれにしても、今回のお産は、三日も長引いた。チクチクと数分おきにやって くる陣痛が延々と続く。それで、最初の夜はサミーラさんは寝ることができなかっ た。二晩めはかなりひどい痛みになって、それで一睡もできなかった。それが三晩 にもなると、半分拷問のようになってくる。ケアするほうも休むことができず、 ひたすら消耗してくる。昔から、拷問でもっとも辛いのが、寝かせない拷問と言われて いるけども、一晩ならまだしも、二晩め、三晩めともなると、もう、精神状態もお かしくなってきて、やっぱり、仕舞には、半分ヤケクソになって、ええい、切っ て出せと怒鳴りたくなるかもしれない・・・。
やっぱり帝王切開?
結構、しんどかったですよ!あはは!プラバダイは『そんなもんだよ』と言ってい たけどね・・・お産が始まってから三日目の朝、もう、根をあげました。やっぱり、 産婦人科のドクターが診断したように、サミーラさんは帝王切開でしか子供を産む ことができないんだと、一旦は、諦めたんです。
実は、予定日を2週間すぎて、陣痛も何も起こらず・・・それで、さすがに心配 になって、産婦人科にいったところ、その医者が大きな目を開けて、びっくりした んですね。いったい、あんたたちは何をやっているんだ!と、自宅出産・・・いまどき危険すぎる!こんなに放置したら、もうは帝王切開しか方策がない!と断言したんです。
「超音波を見なさい!子供の頭が巨大になっている!体重も4キロ!これは自然分 娩はかなり難しい・・・っていうか、ほとんど困難、いまとなってはね。もっと早 く来ていれば、予定日あたりに子宮口をあける処置をして陣痛促進剤を使っていれば、自然に産道を通って出てこれる、そんな可能性もありはしたが・・・」
「予定日超過二週間の段階で、できるうことは少ないですよ。まぁ、可能性は一つ に絞られてくる。あなたたちはいまなお、自宅で自然分娩をしたいと言っている。 でも、私は医者として言うことは言わないといけない。頭のなかは、自宅で『自然分 娩』という四文字で一杯かもしれないが、その考えはこれくらい小さくして、『帝王切開』という4文字をもっと意識してほしい。だって、自然分娩の可能性 は小さいから、その状況にあわせて物事を考え直す必要があるのだから・・・いま にいたっては自然分娩の可能性は数パーセント。残されているの可能性は『帝王切 開』しかありません。心の準備をしてほ しい。ベイビーが生きてこの世に出てくるには帝王切開という方法も、場合によっ ては選択する必要があると理解してほしい・・・。」
お医者さんのそんな言葉を聴きながら、サミーラさんは涙をほろほろと流していた。 まはは「随分とはっきりと言ってくれるよなぁ・・・」と思いながらも、今にいた っては、医者としてはこう言うしかないんだなと思っていた。医者は極力 リスクを避けようとする、だから、飯の種にもなる・・だよなぁ~と思いつつも、 やっぱり帝王切開しかないんか・・・とほほ。自宅で産むって、いろいろと準備し てさ、へその緒を切るために、竹を削って竹包丁まで手作りしたのにさ・・・ムダな仕事 になっちゃうのかなぁ~?なんて思いつつ・・この先生は、帝王切開が主流になり つつあるインドで、珍しくできるだけ帝王切開しないということで有名・・そんな 先生に、こんな風に言われてしまうと、さすがに意気消沈もする・・・。
「・・・帝王切開になったら・・・」
涙を流しながら、細い声で、サミーラさんは日本語で医者に聞き始めた。 まはは、それを通訳する。
「・・・帝王切開になったら、初乳はベイビーにあげられるの?だって、麻酔も使 うでしょ、それに抗生物質も使うはずだから・・・。インドの麻酔や抗生物質は強 いから心配・・・私は、初乳はあげたいの・・・」
「・・・麻酔はね、最近は局部麻酔しか使わないから・・・だからね、ベイビーの 産声は聞けるよ。ただ、抱き上げたりすることは出来ないだろう。抗生物質も少量 を飲まないといけない。手術は手術で、感染の危険があるから・・・だから、初乳 は、出産の日にはあげられないかもしれない・・・ただ、三日もしたら、大丈夫、 ちゃんとあげられるようになるから・・・。たった三日の辛抱。」
「・・・私は初乳をあげたい・・・でも、ベイビーが生まれてくるときに、明かり は暗くしてくれるの?ベイビーの目が心配なの・・・」
「明かり?暗くすることはできない。手術して出すわけだから・・・ここにいたっ て、そういうことに気を使うことはできないです。とにかく安全にベイビーを出す ことが優先ですから・・・。」
まはは、そのやり取りを聞いていて、横から口を差し挟んだ。
「ドクター、最終的に帝王切開になるにしても、最後の最後まで、自然に出てくる のを待つことは・・・せめて、陣痛が来るのを待って・・・だってね、彼女は陣痛を待 ちこがれているんだから・・・せめて、陣痛を感じさせてやりたい・・・だから、 あくまで、自力で出る・・・・」
そのとき、ドクターはちょっとイライラした表情をしたかと思うと、こう言った。
「また、話しが振り出しだね。私は、最初にはっきりと言っているよ。自然分娩の 可能性はほとんどない。いまとなっては、陣痛促進剤ですら使えない。私が見る限 り、そう、はっきりと言う、『帝王切開』しか方法はない・・・だから、もう初乳 とか、明かりとか、自然分娩の可能性を最後まで捨てないとか、そんな話しをして いても埒が明かないと思う。とにかく、今日はおうちへ帰ってください。幸いなこ とにベイビーの心音はしっかりしている。だから、今日明日中に帝王切開しなくて はならないという差し迫った必要性はないと思う。この数日のうちに、心の整理を して、ちゃんと決心してもらって、病院に来てください。それにね、なんで、陣痛 なんてものを待つわけ?あんな大変なものをしなくても済む方法があるのにね・・ ・ああ、知らないから、わからないんだね。まぁ、よし。最近は帝王切開だって、 そんなに心配はいらないし、逆に不必要に陣痛の苦しみを味わう必要がない・・・ 手術が順調に終わったら、すぐにベイビーはお母さんの横に寝かせてもらえるし、 三日もしたらお乳も与えられる。一週間から10日で退院。楽なもんだから、心配 することはない・・・。なんで、そこまで危険を冒して、自然分娩にこだわるのだ ろう?私には理解できない。ベイビーが仮死になる可能性もあるし、胎盤機能が落 ちれば、ベイビーが脳障害で生まれてくることもある。予定日超過は危険なんだか ら・・・。。」
ここで待つ!
病院からの帰り道、車のなかで、まはは言いました。
「・・・どうしたらいいんだろう?帝王切開でも仕方ないか、あと数日待って、陣 痛が来なかったらあの病院に行こうか、どうしようか?どうしたい?」
サミーラさんはかなりしょんぼりしていました。まはが話しかけても、うなだれた まま、サミーラさんは何も話しませんでした。ときおり、手を目のあたりにもって いって、シクシクと泣いているようでした。あんまり気の毒で、まははもう何も言 うことができませんでした。
まはは思っていました。
「あ~あ、ふうちゃん、自然に出て来れないんかなぁ~、あの先生が言うように・ ・・ふうちゃんが、おうちで出てこれるように、すべての手はずを整えていたのに ・・インドで風呂がない!ってんで、風呂もつけて、胎盤を保温する冷凍庫がないっ てんで、冷蔵庫もかったし、部屋を暗く!ってんで、黒紙で部屋を暗室にして、蚊 が出る!ってんで、アパートの窓という窓は、すべて網をかけて・・・サミーラさ んと二人で相談して、このインドというできることに限りがある中で、できること をひたすらやってきたのに・・・それも全部、不要になっちゃうのか・・・」そう 思うと、急にがっくりとして、腰が抜けたように、もう何もしゃべらなくなってし まいました。
ところが、うちに帰ると・・・サミーラさんはきっと目を開いて、
「やっぱ、だめ、あの病院にはいかない・・。あそこは産む場所ではないとい う感じが強くする。ふ~ちゃんが産まれるのは、このおうちと、こことしか思え ないの・・だから、ここで待つわ!」
ときっぱりと言った。
とそれから、1週間・・・大変な待ち時間でした。都合3週間と2日で23日・・・こんなに待 つ人も最近ではあまりいないんでないでしょうか? 胎盤機能や、いろいろで、2週間が限度とされているのではないかな?と思うん です。
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- 出産という賭け・予定日超過23日のお話<2>
自然出産のすすめ
まは、出産経験無し、ああ、もちろんです、男ですから・・。正確には子供も持ったことがなかった。サミーラさん、出産未経験者。ずぶの素人が二人して、ふうまくんの出産にこぎつけた!『できるだけ、何もしないのがいい、するのは最低限。あとは生きるも死ぬも自然のままに任せる・・』そんな生き方のほうが楽しいよ!